『老いた男』トマス・ペリー / 逃げ切れるか?!
逃げるよ、逃げる。
どこまでも。
逃げ切るまで。
この『老いた男』は、そんな逃げる男の話。
老いたといっても、男の年齢は60歳。元工作員だから、60歳といえどもそこら辺の中年とは訳が違う。老いてなんか全然ない。現役でも通用するくらい powerful man。
35年前の任務でトラブルが発生し、それが元で逃亡が始まる。
35年の間に妻は亡くなり、2匹の犬とひっそり暮らす生活が当たり前になっていた時、突然何者かに襲われる。再び始まった逃亡の日々。
男の名はダン・チェイス。ピーター・コードウェル。ヘンリー・ディクソン。アラン・スペンサー。
男が4人? いや1人だ。男は逃げるたびに名前を変え、身分を変える。
いっしょに逃げる女にも名前を変えさせ、身分を変えさせる。
とにかく逃げる。閑静な住宅街。鬱蒼とした山の中。まっすぐ伸びたハイウェイ。
アメリカ、ヴァーモント州から始まり、シカゴ、カリフォルニア。カナダ、トロント。北アフリカ、リビア。最後は・・・。
世界を舞台にした逃走劇。
男を追っているのは何者なのか。 逃げ切れるのか。
とまあこんな話。
中年(あえて老年とはいわないでおく)男の渋みとか、自分が生き延びるためならいかなる時も冷静沈着な判断と行動ができる非情な面と、自分を襲ってきた者にしか銃を向けなかったり、逃げるために利用した(はずの)女を逃がそうとしたり、ある意味人間くささを併せ持った主人公に引かれる。
しかし、どう考えても老いた男ではない。
old には「年をとった」の他に、「老練な」「経験豊富な」という意味もあるから、そういった微妙なニュアンスも含んでのタイトルなのだろう。
文章はとても読みやすい。特に後半は展開が目まぐるしく、気がついたら読了していた。
最終章があっさりなのもいい。くどくどと説明せず、あっさり終わっているところがページを閉じた後の爽快感に繋がる。
Google Earth で現在地を特定しながら読み進めると、より臨場感を味わえること間違いなし。