行けるところまで行ってみよう

1年たつのは早い。早すぎる。ここまできたら行動あるのみ。後悔先に立たず。

『夫婦茶碗』 ストーリーは二の次、突き抜けたダメっぷりが潔くて気持ちいい

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いいねー、この駆け抜けるダメっぷり。

過激で、狂気と紙一重な狂いっぷり、開き直りっぷりもいい。

ここまで正々堂々と、いい加減っぷり、ダメっぷりを描きあげた町田康はすごいよもぉ。

読みながら、思わず何度も声を出して笑っちゃったよ。

夫婦茶碗』 町田康

あらすじ

夫婦茶碗

仕事もせず、妻からお金がないと言われた「わたし」は、茶碗を洗う茶碗ウォッシャーになろうと決める。しかしそんな仕事に需要はなく、知り合いから頼まれてペンキ屋を手伝うことにした。これが意外に儲かり「わたし」は妻に冷蔵庫を買ってやった。ペンキ屋もやめてしまった「わたし」は、金目のものを質に入れてお金を作り、その後メルヘン作家になる決意をする。メルヘン小説の構想を練る「わたし」だったが、できあがったのはおよそメルヘンらしからぬストーリーだった。「わたし」はあり金をはたいて買った夫婦茶碗茶柱を立てようとする。

「人間の屑」

元パンク・ロッカーの青十郎は、祖母の経営する温泉旅館で猫を観察したりしてぶらぶらしている。祖母からさんざん働けと言われ、嫌気がさした青十郎は旅館を飛び出し一路新宿に向かう。女と暮らし始めた青十郎だったが、女が妊娠し仕事をやめたとわかったその日に女を捨てた。その後別の女のところに転がり込み、捨てた女から逃げるため2人で母の住む実家に身を寄せる。うどん屋を始めたかと思えば、ナイトクラブに鞍替えし、そのうち港の日雇い仕事を始める青十郎。そんな青十郎の元に乳飲み子の写真が入った封筒が届く。自分が捨てた女の赤子ではないかと慄く青十郎。心身を病んだ青十郎はミリタリー趣味に傾倒し、猫を助けるためライフルをぶっ放す。

感想とか

こうやって一応あらすじを書いてはみたものの、2作ともあらすじなんてあってないようなものだ。

最初と最後の辻褄が合わない、何でこうなる?って感じの展開。下手にストーリーを追うと多分腹が立つ。

それよりこの2作は、何も考えずにひたすら突っ走る感じ、惜しげもなく(ダメな方に)振り抜ける感じを味わうのがよろしいかと。

疾走感なんてきれいな言葉が似合わない、もっとぐちゃぐちゃ、ねばねば、胸くそ悪い?、うまく言えないけど、とにかくその突き抜けっぷりが潔よくて心地いい。

どうしてこんな文章が書けるんだろうか。すごいとしかいいようがない。

「わたし」や「青十郎」の、頭の中に浮かんだあれこれを、言葉にして書き連ねているだけのように見えるけど、実はそれってすごく難しくて、例えば、自分でも何となく思ったっていうのは感覚であって、それを言葉にして他人に説明しようとすると案外難しいのと同じで、「わたし」や「青十郎」の内面をここまで言語化した町田康は、やっぱりすごいとしかいいようがない。

ほらね、何言ってるかわからないでしょ。思ってることと、それを書いたつもりの文章、かけ離れすぎ。

夫婦茶碗』には、「夫婦茶碗」と「人間の屑」の2作が収録されているが、個人的には「夫婦茶碗」の方が好きだ。「人間の屑」は手放しでは楽しめないダメっぷり(妊娠した女性を捨てる)が引っかかる。ここが男と女の違いか。

何にせよ、本作はストーリーより文体を楽しむ作品といえる。

最後に、これから本作を読もうと思った人への注意点。

短い作品なのでできれば一気読みするのが良し。段落とか区切りがあまりない作品なので、途中でやめると、どこまで読んだかわからなくなる。

もっと重要なことは、人前では読まないこと。薄ら笑いはともかく、声を出して笑ってしまうから。まぁそれをはずかしいと思わなければ、どこで読んでもいいんだけど。

主人公のダメっぷりつながりで『パルプ』から『夫婦茶碗』を読んだけど、ダメっぷりは『夫婦茶碗』に軍配が上がったね。