『三分間の空隙』/ スケールはでかく、コロンビアの少年に胸が痛んだ
スケールがでかい。でかすぎる。
物語は中米コロンビアから始まり、スウェーデン、アメリカを何度も往復する。
スウェーデン人の犯罪者がアメリカ麻薬取締局に雇われ、コロンビアの麻薬組織、ゲリラ部隊の一員となり潜入捜査を行う。
警察小説だけど主人公は潜入捜査員。警察はあくまで助っ人。
絶体絶命の事態に陥った潜入捜査員をスウェーデン・ストックホルム市警察の警部が救う話なんだけど、視点はあくまで潜入捜査員で、たった3分間の空隙をぬって脱出を試みるのも潜入捜査員。
後で知ったことだけど、『三分間の空隙』の前作ともいえる『三秒間の死角』を読んでから本作を読むとより楽しめるそうな。
そんなこと知らんかったので、ちょっと損した気分。まあいいか。
話は戻ってスケールのでかさ。
日本国内だって北海道と沖縄じゃえらく遠いし移動も大変だけど、こっちはスウェーデンからコロンビアに行っちゃう。コロンビアからワシントンにも行っちゃう。すごいよね。
著者のアンデシュ・ルースルンドはリサーチのためにコロンビアに赴いたという。コロンビアの麻薬組織の中枢にある人物と協力関係にあったともいわれている。
そりゃそうだ。麻薬犯罪について書きたい、舞台はコロンビア、となったときに、著者の想像だけで物語が書けるわけがない。確かな情報がないと物語は破綻する。
著者(ルースルンド&ヘルストレム)の執筆方針は、「フィクション半分、ファクト半分」だそうだ。なるほど。
だから物語の半分は事実として受け止め、半分はエンターテイメントとして楽しめばいい。
ただ結構グロテスクというか暴力的なシーンが多く、「警察=絶対正義」「正義は勝つ」の式が当てはまらない歯痒さもあり、微妙な心情を抱く場面もある。
何が悲しかったって、年端もいかない少年がお金のために人を殺す、シカリオ(殺し屋)になることを自ら望んでいるということ。たった200ドルで人ひとり殺す。生活のために。
長い間、反政府武装勢力のテロ活動で治安が悪化していた国コロンビア。2010年代に入り治安が改善されたといわれているが、シカリオになりたがる少年は今でもいるのだろうか。と思ってしまう。
手に汗に握る脱出劇だけど、物語全体を通して小賢しい(?)どんでん返しがないのがいい。なんていうか、ここで誰かが気づく!?みたいな、取ってつけた展開がないってことなんだけど、わかるかな?わからんかったらスルーで。うまく説明できん。
上下2巻。結構ボリュームがあり読むのしんどかった。特に第一部が何の小説だっけ?って感じ。警察出てこん。
スウェーデンの小説というと、真っ先に『ミレニアム』が思い浮かぶ。っていうかそれしか知らない。それで今回はこの『三分間の空隙』を読んでみた。
『三分間の空隙』はグレーンス警部シリーズとして未邦訳も含めて現在までに10作あまり続いている。(途中、著者のひとりヘルストレムが逝去した後はルースルンドが単独で執筆している)
一作目の『制裁』もかなりおもしろそうだし、本作の続編『三時間の導線』、前編『三秒間の死角』も読んでみたい。
あーどうしよう、時間が足りない。