『三時間の導線』 アンデシュ・ルースルンド / 疾走感の後、やるせなさに襲われる
遺体安置所に昨日まではなかった遺体が一体紛れ込んでいた。
誰が、何のために、どのようにして運び込んだのか・・・。
何という衝撃的な始まり。そそられる導入。一気に物語に引き込まれるじゃないか。
ストックホルム市警・警部グレーンスシリーズ7作目(邦訳分)。
5作目『三秒間の死角』は読んでないのでわからないけれど、6作目『三分間の空隙』と比べると文句なしにおもしろい! 秀逸!
何がいいって、まずは疾走感。物語全体にスピードがある。
上下2巻だけど読了までに正味2日。読み始めたら止まらなくなるおもしろさ。
手に汗握る(陳腐な言い方がはずかしい)シーンの連続。展開もいい。
そして、緊迫感を出すための描き方(構成というのか?)がまたいい。
3時間を切るまでのカウントダウン。かたやアフリカ・リビア、かたやスウェーデン・ストックホルムと巧みに場面を切り替えて読者の前に突きつける。
全速力で走り切った後の静寂。余韻に浸る間もなくふたりの若者の姿が描き出される。
寄り添うふたり、交わす言葉、思い描いた未来。
ここまで読んできた読者はふたりを見て何を感じるだろう。
理不尽、 不条理、 やるせなさ、 無力感、、、
ルースルンド(&ヘルストレム)の作品の根底には社会問題がある。麻薬、売春、暴力、死刑制度など。本作もアクションを前面に出したエンターテイメントではあるが、スウェーデンの暗い闇(ネタバレになるので内緒)に焦点を当てた作品であり、軽い気持ちでは読めないと覚悟した方がいい。
とはいうものの、胸キュンほっこり場面もあったりする。
Loveだ、Love。
無骨で頑固で決して他人と交わろうとしないグレーンス警部の心が開いたんだ。ふたりの子どもに。
無条件に信頼され、家族のように(家族でないが故に←ここ重要)愛情をよせられたグレーンスは、戸惑いながらも子どもたちと向き合い受け止め、責任を果たそうとした。そして果たした。
人の命が蔑ろにされる世界、金儲けがすべての殺伐とした世界の物語で、ほっと心温まるシーンがあって救われた。
硬いばかりじゃね、柔らかいところもあって硬さも生きる。何のこっちゃ??
余談。
実は『三時間の導線』の前に警部グレーンスシリーズ1作目の『制裁』を読み始めた。
が、あえなく撃沈。 理由:生理的に受け付けなかった。
『制裁』は性犯罪、中でも小児を狙った性犯罪を描いた作品で、犯行現場の描写が生々しく吐き気がした。それだけリアルということなんだろうけど。
とにかくダメだった。まぁ読み始めて途中で棄権することもあるさ。読書は無理強いされるものじゃないし、あわない小説に出会った時は早々に切り上げる勇気も必要かと。