『きのうのオレンジ』 藤岡陽子 / 読後は空を見上げたくなる清々しさ
これ、絶対ヤバいやつ。
絶対ヤバい。
涙腺崩壊するやつじゃん絶対。
と思って読んだけど、大丈夫だった。緩みかけたけど。
『きのうのオレンジ』は、若くしてがんを宣告された男性と、彼を支える家族の話だ。
聞いただけで重くなりそうだけど、読後は意外にも爽やかというか、清々しい(異論はあると思うが私はそう感じた)。
闘病記とかそういった類の話ではなく、主人公以外の登場人物(ほぼ全員)にもまあまあな過去があって、それらのエピソードがちょっとずつ(それなりの重さで)語られていたりする。ちょっとてんこ盛りすぎないか?と思えるくらい、ブラックな過去が次々と明かされていく。
でも、それらのエピソードをさらっと挟むことで全体のバランスが取れているようにも思う。物語が重すぎず軽すぎず、最後は上を(空を)見上げたくなるような気持ちにさせてくれる不思議な物話だ。
病や死を扱う物語なのに清々しさを感じる理由は何か。
それは、物語の底辺に「慈しみ」の感情があるから。←あくまで私見。
この作品は慈しみに溢れている。
家族や友人に対する愛情、感謝の気持ち、優しさ、強さ、弱さ、いろいろな感情が詰まった物語だけど、一番感じるのは「慈しみ」だなやっぱり。
綺麗事ではすまされないのが現実だし、涙はいつまでたっても枯れないし、こんなのは小説の中だけの話だっていう人もいるだろうけど、こういう終わり方があってもいい。
人は生まれた時から死に向かって生きている、とどこかの誰かが言っていた。
確かに。
最期に「幸せな人生だった」といえるよう、自分の人生を全うしたいものである。
最後に、ほほーッと思った比喩をひとつ。
友人が主人公のことを「リモコンの5についてる突起みたいな感じ」という場面がある。
暗闇でも5の突起がわかれば操作できる、そんな存在。
困ったときに思わず探してしまう存在。
なかなかいい比喩だよね。気に入った。