行けるところまで行ってみよう

1年たつのは早い。早すぎる。ここまできたら行動あるのみ。後悔先に立たず。

『書店主フィクリーのものがたり』 ガブリエル・セヴィン / フィクリーはすべての読書人の代弁者

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不思議な物語だった。

島にたったひとつの書店「アイランド・ブックス」の店主が、店に置き去りにされた子どもを引き取り育てていく話だ。

読み終わってもう一度あらすじを追ってみると、登場人物に(主人公の書店主以外の人物にも)起きた出来事はほとんどが悲劇であり、軽々しく口にできないことばかりなのに、それらが一定のリズムで淡々と語られているためか、悲壮感や陰鬱、沈痛、そういった感情とは無縁なものに仕上がっている。

それどころか、本好きが読むと「ブラボーッ!」と叫びたくなるような台詞がそこかしこに散見され、妙に納得、そうそう!とつい声を出したくなる。

この物語で一番の台詞はこれではないだろうか。

ぼくたちはひとりぼっちではないことを知るために読むんだ。ぼくたちはひとりぼっちだから読むんだ。ぼくたちは読む、そしてぼくたちはひとりぼっちではない。ぼくたちはひとりぼっちではないんだよ。

この物語を読んで、本を読むってそういうことなんだよねと思った人、多くないだろうか。私はこの台詞に作品のすべてが凝縮されていると断言する。


本作には数え切れないくらいたくさんの小説(のタイトル)が出てくる。ほとんど知らないものばかりで情けない。

それぞれの章の冒頭に、主人公が興味を持つ短編のタイトルと主人公のコメントが記載されている。その他に文中にもたくさんのタイトルが飛び出す。著者の知識量が半端ない。

せめて半分でも知っていれば、もっと楽しめる(主人公の人柄、考え、生き方を知る)ことができるだろうに、残念。

唯一共有できたのが、第一部第一章の冒頭に記された『おとなしい凶器』(ロアルド・ダール)に関するコメント。『おとなしい凶器』は『あなたに似た人 I 』に収録された一作。

冷凍された肉(仔羊の脚)を解凍もせず、そのままオーブンで焼いても硬くてまずいんじゃない?って、私も思ったよ。


そうそう、もう一つ、新鮮だったこと。

書店主がソーシャル・ワーカーのことを本に例えていた。人を本に例えるなんてこと、今までしたことないし、そんなことする人は多くないと思う。本関係の人はするんだろうか?作家とか出版社の人とか。

ちなみにソーシャル・ワーカー ジェニーのことは、

段ボール箱から出てきたばかりのペイパーバック − 頁のすみが折れてもいないし、シミもついていないし、背表紙に割れたような筋もない。・・(略)・・ジェニー物語の裏表紙に書かれているあらすじを想像する。・・(略)・・。

初めて会う人を本に例え、あらすじを想像する。本好きならではの習性か?

私はまだその域には達していない。修行が足りんということだなきっと。