『慈雨』 柚月裕子 / 物語のラスト、元刑事に降り注ぐ雨は優しかった
なるほど、そういうことね。
物語はここまで。この先は想像に任せるってことね。
定年退職した元刑事が妻と四国お遍路さんの旅に出る。旅先の宿で知った少女誘拐事件が、16年前に自分が手がけた少女誘拐事件と酷似していることに気づいた主人公は、後輩を通じ捜査に協力するという話。
お遍路さんというゆったり流れる時間と、捜査現場のピリピリした緊迫感が並行して語られるのがこの作品のキモなのかもしれない。
刑事と刑事の妻、刑事の娘、娘の恋人の刑事、刑事の同僚、上司、部下、登場人物全員が警察関係者で、とにかく犯人を追う警察小説。
と思いきやそれだけに止まらず、お遍路さんを通して夫婦愛を再確認する心情的な部分にもフォーカスしていて、本作を純粋な警察小説と言い切っていいのかわからない。警察小説初心者なのでと言い訳をしてみるが、正直どのジャンルに分類すればいいのかよくわからん。
物語前半は時間の流れと、ことの重大さやそれに対する主人公の思いが何となくズレているような感じがしてもどかしかったが、後半は一気に加速、犯人逮捕に至る疾走感に、そうそうこれだよ!と最後まであっという間に読了。
さて、読了後何が残ったかというと、、、何だろう? 困った。 思い浮かばない。
ネタバレになるので詳しくはいえないけど、刑事の妻が夫を陰で支えるのはよくある話だし、誘拐事件やその捜査過程や進捗状況も普通にある話。刑事が事件に込めた思いも。
となると、何だろう?
うーん、ごめん、何も思い浮かばない。
要は「慈雨」っていう二文字に惹かれたということ。 全てを覆い包む雨、潤し育てる雨。
確かに、物語のラスト、主人公と妻に降り注ぐ雨は優しかった。
うん、ラストシーンは文句なし。