行けるところまで行ってみよう

1年たつのは早い。早すぎる。ここまできたら行動あるのみ。後悔先に立たず。

『もう耳は貸さない』 ダニエル・フリードマン/ 老いと死刑制度

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あれぇ〜? 

このシリーズ、こんなだっけ?

アクションあり、ハラハラドキドキ冒険小説を期待していたんだが・・・。


『もう年はとれない』『もう過去はいらない』ときて、『もう耳は貸さない』、シリーズ3作目。

元メンフィス市警殺人課刑事のバルーク(バック)・シャッツが現役時代に刑務所に送った死刑囚が、死刑目前に「自白を強要された」とメディアに投稿したことから物語が動き出す。

メディアによる死刑囚や死刑制度廃止をうたう大学教授らへのインタビューの記録と、バックの回想で物語が進む。・・・死刑は執行されるのか?! という話。

主人公・バックは89歳、アルツハイマー認知症で歩行器がないとまともに歩くこともできない。おまけに妻にガンが見つかったというのに、それを覚えていられない。

89歳の元刑事が(前作で負った怪我を克服して)元通りとはいかないまでも昔のように相手を追い詰めるドキドキを期待していたんだけど、そういうシーンは一切ない。ちょっとガッカリ、かな。


そう、本作のテーマは「老い」と「死刑制度」。

認知症の他に、心理的なものが影響して記憶に困難が生じている(と思われる)バック。

見つかったガンに対して積極的に治療するか、残された時間を静かに生きるか、選択を迫られる妻、そしてバック。

ピークを迎えた後の下りの人生。衰えていく何十年の間に自分が残した爪痕も薄れていく。自分が生き続ける理由は? 考えさせられるね。

バックは最後にこう言う。

おれたちにできるのは、老いぼれすぎてもう闘えなくなるまで、信じるもののために闘うことだけだ。そのあと、まわりを眺めて、闘いがほんの少しでも違いをもたらしたかどうか見ればいい。

力強いセリフだね。アクションはないものの、やっぱりバック・シャッツ!

89歳でこれを言えたらすごいよね。私なら言えないな。っていうかそもそも89まで生きてるかが問題。


そして死刑制度。

アメリカの死刑制度は州ごとに大きく異なる。死刑制度そのものがない州もあれば、あっても死刑を執行しない州、執行する州。

メンフィス市があるテネシー州には死刑制度があり、作中では致死薬注射による死刑執行となっている。現実には電気椅子による執行もあるようだが。

致死薬注射による死刑執行に反対する大学教授の意見が述べられていて、エンタメ小説とはいえ、こちらもちょっと(いや、かなり)考えさせられる内容だった。


それにしてもバック・シャッツ、相変わらず毒舌で小気味いい。

あー、でも老いに抗えないバックはちょっと痛々しいかな。複雑。

次作が刊行される予定もあるらしいが、果たして私は読むだろうか・・・。息子の死の謎が明かされるなら読むかも。