『宇宙へ』 メアリ・ロビネット・コワル / SF + ヒューマンドラマ
これはSFか?
Wiki によると、サイエンス・フィクション(SF)とは
科学的な空想にもとづいたフィクションの総称
だそうだ。
ならば、確かに『宇宙へ』は SF小説なのだろう。
しかし、これから読む人には「SF小説と思って読み始めると転ぶかもよ」と言いたい。
文庫本の帯にも書いてある。
計算尺で挑む宇宙移民計画 X リアルな人間ドラマ。「SFは映画だけ」という方もきっと楽しめるはず。
と。
そう、SF + ヒューマンドラマ = 『宇宙へ』と思っていただきたい。
巨大隕石が地球に落下。その結果地球環境は激変し、いずれ地球は人類が生存に適さない惑星となる。そこでアメリカは宇宙開発計画を加速し、地球外に人類を送ろうとする、という話だ。
うん、確かにSF小説だ。
でもなんか違うんだよね。そもそも物語の時代は1952年。近未来とか遠未来の話ではなくて過去の話。もしこうだったらこうなってた、みたいな話で、SFっぽくないというか。
ロケットとか宇宙開発に関する専門的な用語や場面描写もあるにはあるけれど、それと同じくらいの分量で「性差別」や「人種差別」について語られているところが本書の特徴だ。
隕石落下は事実ではないけれど、宇宙飛行士は男がなるものという女性蔑視の風潮は1950年代は歴然とあっただろうし、宇宙飛行士候補に選ばれるのは白人だけという人種差別もあっただろう。
今でこそ女性も非白人も宇宙飛行士になれるけど、そういった時代の流れや当事者(女性パイロット)の葛藤や団結のようなものをリアルに描いているためSFっぽくないと感じてしまうのかもしれない。
なので、100%SFを求める読者にはちょっと期待外れになるかもしれない。
まぁでも、それなりに最後は感動したし、部分的に最高!と思うところはあった。個人的にはT38練習機を操縦する場面がおすすめ。
そうそう、主人公(女性パイロット)が母から受けた厳しい教育のため、他人の視線が気になり、それ故精神不安定になるなんてところは、すごくリアルで現代の話みたいだった。
そんなこんなで、もともと『火星へ』を読むために『宇宙へ』を読んだわけだけど(三部作らしく、『宇宙へ』の続編が『火星へ』、3作目の『The Relentless Moon』も現地では2020年に刊行されているらしい、邦訳はまだだけど)、『火星へ』もこんな感じなのかな。。。