行けるところまで行ってみよう

1年たつのは早い。早すぎる。ここまできたら行動あるのみ。後悔先に立たず。

『ワイルド・ソウル』 垣根涼介 / 自由になりたかった男たち

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みんな自由になりたかったんだよ。

それぞれ形は違うけど、最後は解放されてよかった。


これ、岩田書店の一万円選書で選んでもらった一冊(上下で二冊)なんだけど、岩田社長、私の好みをドンピシャ射抜いてくれた。

好きだな〜こういうの。大好き。

エンタメなんだけど本を閉じて終わりじゃなくて、読了後もしばらく腑抜け感が抜けず、気がついたらストーリーを追ってる自分がいた。


1961年、政府の募集で700人ほどがブラジルに移住した。政府の説明によると、入植地は農業用地として開墾され、灌漑用水や入植者用の家屋も完備されているはずだった。しかし実際に到着した土地は密林に覆われ、排水設備や家屋はおろか、開墾済みの畑さえもどこにもなかった。入植者の半数がマラリヤに罹患し、アメーバ赤痢に冒される者も続出した。必死に開墾し稲作を始めたものの、雨季の豪雨で田んぼはすべて水の底に沈んだ。多くの家族が逃げ出し、入植後1年を経ずに、残った入植者は6家族、19人になった。23歳の衛藤と妻、弟も最後まで残っていたが、妻と弟は黄熱病にかかり無残な最期を遂げる。衛藤は絶望し自ら命を絶とうとしたが、同じく最後まで残っていた野口に止められた。衛藤は10年後必ず戻ってくると野口に約束して入植地から出て行った。そして10年後、入植地に戻った衛藤は野口夫妻の墓標を見つける。そこには野口の幼い息子ケイが一人残されていた。絶望と貧困を味わった衛藤、ケイ、山本、松尾が政府に復讐する・・・という話。

このさわりを読んだだけで物語に引き込まれないか? 鷲掴みだよまったく。

読んでいくうちに、これほどの歴史的事実を知らなかった自分を恥じ、改めてブラジル移民について資料を読んだくらいだ。

衛藤たちは、自分を取り巻く環境や抗えない運命から自由になりたくて復讐を企てた。それしか自分を解放する術がなかった。それが痛いほど伝わってきて狂おしかった。


主人公は衛藤のような気もするが、ケイも、松尾も、山本も、それぞれにキャラが立っていて、結局4人が主人公ということにした。物語の展開に合わせて視点を変え、全体像をあぶり出しているし、4人の行き着く先が気になって仕方なかったしね。

4人の退場の仕方がまたいい。物語からのフェードアウトが4人とも違ってグッときた。それぞれ違った背景を持った人間がどこかの時点で出会い、その後ひとつのことを成し遂げ、元の場所に戻っていく。切なさあり、安堵感ありのエンディングだ。


松尾が乗っている車についてすごく詳しく描かれていたし、銃についてもよくわからないけど詳しい描写のような気がした。警察の捜査の場面もリアルで、いろいろな場面で楽しめる作品だと思う。

もちろんストーリーも特に下巻は怒涛のごとく展開し、片時も目が離せなかった。


近々で読んだ本ベスト3を選べといわれたら、『ワイルド・ソウル』が文句なしのベスト1だね。

ちなみにベスト2は『オービタル・クラウド』。一万円選書強し!