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『短くて恐ろしいフィルの時代』 ジョージ・ソーンダーズ / 現代版寓話、脳が落っこちる!

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これは寓話か? 空恐ろしいおとぎ話か? 

現代版寓話だな、きっと。


中編の部類に入る短めなお話。

<内ホーナー国>は領土が狭く、国民が1人しか入れない。残りの6人(ということは内ホーナー国民は全員でたった7人)は<内ホーナー国>を取り囲む<外ホーナー国>の領土内の「一時滞在ゾーン」に身を寄せ合って立ち、自分の国に住む順番を待っている。ある時<内ホーナー国>の領土が突然狭くなり、たった1人の住人の体4分の3が国外に出てしまった(はみ出したってこと)。そこへ巡回中の国境警備員が通りかかり一悶着。解決策としてフィルが<内ホーナー国>から税金を徴収することを提案する。取り立てが厳しくなり、納めるお金がなくなった内ホーナー国民に対してフィルは・・・という話。


奇抜でバカバカしい話なんだけど、なぜか最後まで読んでしまった。

内ホーナー国民も外ホーナー国民も、後半に出てくる大ケラー国民も、みんな人間みたいで人間じゃない。姿形もおかしいし、習慣や言動もおかしい。

でも、やってることは私たち人間と同じ。領土を巡る争い。権力を持つ者が弱い者を制圧し服従させる。

結局、人類が大昔から繰り返してきた醜い争いを現代版寓話に描き直して、私たち読者に突きつけているような、そんな感じの物語だ。


フィルという独裁者にはとんでもない問題があった。それは、脳がラックから落ちてしまうことだ。

は?って感じだよね。

脳をラックに固定しているボトルがときどき外れて、勢いよく地面に落っこち、ごろごろと転がって溝に落ちるなんて、ホントにもぉ!だよね。

脳が落ちるたびにタガが外れるフィル。結局それが命取りになる訳なんだけど、なんかシュールで空恐ろしい。


訳者によると、作者ジョージ・ソーンダーズは『短くて恐ろしいフィルの時代』を子供向けの絵本のつもりで書きはじめたらしい。しかし6年を経て大人向けの作品に変わり、いったんは300ページにも膨らんだ作品を削りに削って中編に収めたそうだ。

寓話的だけど、クスッと笑える物語。気軽に読めるところもいいね。