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『ロング・グッドバイ』 レイモンド・チャンドラー / おもしろいから一度は読むべし

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こんなにおもしろいって知ってたら、もっと早くに読むんだった!


ロング・グッドバイ』がミステリーだったとは、読み始めるまで知らなかった(いや読み始めてさえも気がつかなかった)。

なぜって、村上春樹が影響を受けた作家だから。

村上春樹は『グレート・ギャツビー』にも影響を受けたと言っている(確か)。

だから、『ロング・グッドバイ』も『グレート・ギャツビー』のような、よくわからん小説だと思い込んでいた。『グレート・ギャツビー』を読んだのはかなり前で、その時は良さがわからなかった。読み返そうとも思わず現在に至るわけだが、同じ村上春樹が影響を受けた作家(作品)のわけだから同じ流れのものだと思っていた。

が、違っていた。ミステリーなんだよこれは。チャンドラーはミステリー作家だったんだ。


ということでこの『ロング・グッドバイ』、ストーリーがめちゃくちゃおもしろい。

複数の人物の物語が複雑に交錯して、どこに接点があるのかわからんと思いながら読み進めると、ほぉーっ!とある時点で合点がいく。

めちゃくちゃおもしろい!と思い、さらに読み進めると、あれ?違った?と違う展開になり、二転三転して最後の再会(おっと、ネタバレになるのでここまで)。

してやられた感満載のミステリーだった。


主人公はフィリップ・マーロウという私立探偵で、偶然出会った大金持ちの娘を妻に持つテリー・レノックスと知り合い、友情らしきものを覚える。何度かいっしょに酒を飲んだふたりだが、マーロウはレノックスの個人的なことを問うことはなかった。ある日レノックスは妻を殺害した容疑をかけられ、マーロウはレノックスが国外に逃亡するのを助ける。しかしその後、レノックスが自殺したと告げられ、事件の真相は闇に葬られることになった。マーロウはレノックスが妻を殺したとは思えなかった。事実はどうだったのか・・・という話。


主人公はマーロウなのだが、実は作中でマーロウの思考や感情は直接描写されていない。マーロウの放った言葉や取った行動で読者はマーロウの人となりを推しはかることになるわけだ。

それに、主人公はマーロウといったが、果たしてそうだろうかと思う部分もある。

マーロウが次々と事件に巻き込まれていく様子を目の当たりにしながら、実は影の主人公はレノックス?、はたまたベストセラー作家のウェイド? と思える節もあったりする。奥が深い小説だ。

こういった物語の展開やプロットのおもしろさはもちろんなのだが、何といっても、チャンドラーの人物描写がこれまた見事だ。

あるひとりの人物が登場する。その人物が主要な登場人物であれ脇役であれ、その人の風貌なり特徴を詳細に描写し、その姿を読者に差し出す。描き方がまた粋なんだな。

ところどころにチャンドラーこだわりの表現があったりもする。社会(警察組織)に対する批判もそのひとつだ。

ということで、『ロング・グッドバイ』はミステリーとしてだけでなく、チャンドラーの筆致力が存分に楽しめる作品なのである。


ロング・グッドバイ』にはもともと、清水俊二訳の『長いお別れ』があった。1958年出版だ。約50年後村上春樹訳で『ロング・グッドバイ』が出版された。

どちらが読みやすいかとか、そういうことは考えていないし読み比べてもいない。ただ、この『ロング・グッドバイ』には巻末にかなりのボリュームの訳者あとがきが載っていて、それがまた読み応えがあり、お得感がある。

村上春樹は本当にチャンドラーに影響を受けたんだなぁとわかるような、いろいろな角度から本作および作者を俯瞰し解説している。

一読しただけではわからない(気づかなかった)多くのことを、このあとがきで補足し、できることならもう一度読み返したいと思った。でも他にたくさん読みたい本があるので実際は読み返さない。

文学手法を説明するところで、同じアメリカ文学アーネスト・ヘミングウェイが引き合いに出されている。『武器よさらば』だ。自我を描く云々というところは正直難しくて理解できなかったが、『武器よさらば』を読んでその違いを体感したいと思った次第。

村上春樹のことは好きでも嫌いでもないが、ほとんどの長編小説は読んでいるのでどちらかというと好きなのだろう。ひとつの作品を読んで、何らかの繋がりがある作品を提示されるとつい読みたくなってしまう。これどお?って勧められたのが好きな作家だとなおさら。

でもなぁ、『武器よさらば』って戦争ものだったよね。どうしようかな・・・。