行けるところまで行ってみよう

1年たつのは早い。早すぎる。ここまできたら行動あるのみ。後悔先に立たず。

『君たちに明日はない』 濃いキャラと心地いいテンポで展開されるストーリーはさすがだね

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よくもまあこんなに濃いキャラの人物を投入できるものだ。

それも、次から次へと。

クビ切る方も切られる方も、みんな憎めない。

好きだなぁ。

君たちに明日はない』 垣根涼介

相変わらず、垣根涼介はエロい。 訂正、垣根涼介の書く小説のごく一部がエロい。

その描写に嫌悪する読者もきっと多いだろう。 私? ・・・答えは想像にお任せするとして。

君たちに明日はない』は5つの短編からなる連作である。


リストラ業務請負会社「日本ヒューマンリアクト」に勤める村上真介の仕事は、企業の代わりにリストラ候補者にクビを宣告するクビ切り面接官。どんなになじられ、暴言を吐かれ、はたまた泣かれても冷静沈着に対応し、徹底的に調べ上げた個人データをもとにリストラを承諾させていく。そんな中、真介は建材メーカーで面接を担当した芹沢陽子という年上の女性に好意をおぼえる。陽子は継続中のプロジェクトを成功させるまでは絶対に辞めないと決めているが・・・。この他、玩具メーカー、銀行、コンパニオン派遣会社、音楽プロダクションからも業務を依頼される。リストラ候補者はどうなっていくのか・・・・という話。


以前読んだ『ワイルド・ソウル』もそうだけど、垣根涼介の描く世界に登場する人物はみんなキャラが濃い。肉厚だ。

主人公の真介にしろ、それぞれの短編に出てくるリストラ候補者は皆、すごくリアルで嘘くさくない。いるいるこういう人!って感じ。

しっかり肉付けされた登場人物は、危機的な状況においてもどこか憎めず、がんばれ!と応援したくなる。

そして意外なことに、最後の短編「去り行く者」のラストが、陽子目線なのだ。

主人公は真介だから当然真介から見たシーンで終わると思いきや、陽子の目と耳が捉えた真介を描くことで、真介という存在がさらにクローズアップされるという、一見何気ないけど実は凝った終わり方。

にくいね。真介のこと好きになっちゃうじゃない。まぁこれは、陽子目線=年上女目線=私目線ってことなんだけど。


ストーリーもおもしろい。

リストラ業務請負会社という恐ろしい会社は実在しないと思うけど、自社の人事部とかが肩たたきをしてリストラされる人はいる(と思う)。

自分には縁のない出来事と思ってはいるものの、案外候補者だったりして。怖いね。

明日は我が身?って感じで、『君たちに明日はない』のリストラ候補者の行方はとても気になるところだ。どんな風に次のステップに移っていくのか。リストラを受け入れることにしたその瞬間、人はどんなことを思い、どんな行動を取るのかも気になる。読んでいて身につまされる場面もあったし。


物語はテンポよく進み、スピード感もちょうどいい。連作短編ゆえのあっさりした読後感。

でも、私はやっぱり『ワイルド・ソウル』の方が好きだなぁ。

お気に入りのキャラに共感しながら、深掘りした世界にどっぷりと入り込みたい。

余韻がほしいんだな、しみじみ。