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『ポケットマスターピース バルザック』から『ゴリオ爺さん』 悲しい最期と変わり身の早さに呆然とした

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ゴリオ爺さん』 バルザック / 博多かおる訳 (『ポケットマスターピース バルザック』から)

 

ゴリオ爺さんの最期に涙が出た。あんなに娘を愛したのに、その愛情が娘をだめにしたなんてあまりにも悲しい。

それにしても、パリ(上流貴族社会)には女とお金のはびこる匂いがぷんぷんして、まぁ気色悪い。当時の社交界は本当にあんな風だったんだろうか。女たちに貞操という観念はなかったのか? 夫がいるのに愛人と戯れ、愛人に貢ぎ、身を滅ぼす。戦国時代の政略結婚みたいなもの? 男たちは自分が得する(財産目当て、富や名声を誇示するため)女と結婚し、妻が愛人を作っても目をつぶる。妻は妻で見栄を張り、平気で愛人と遊び回り(世間もそれを知っている)、愛人が借金をすれば尻拭いをするものの裏切りは見抜けない。滑稽だね。

物語のラスト、ゴリオ爺さんの葬儀をすませたラスティニャックが叫ぶ一言に、呆然とした。「さあ、今度はぼくらの番だ!」だと? ゴリオ爺さんの亡骸を墓穴に葬ったすぐその後に、愛人の家に食事に出かけるとは。すべてがぶっ飛んでいる。倫理感はないのか? そこまでして出世したいか? 理解不能

もうひとり、本作で気になる人物がいる。ヴォートランだ。ストーリーを知らずに読んでいたらいきなりヴォートランが脱獄犯だったことが明かされ、すごい展開にわくわくしてしまった。どおりでラスティニャックに悪魔のささやきをするわけだ。

全身全霊でふたりの娘の幸せを願ったゴリオ爺さん、出世を夢見てパリの社交界に乗り出そうとするラスティニャック、脱獄犯でラスティニャックに甘い言葉を投げかけるヴォートラン(だけど正体不明)。三人三様の生き様と社交界の腐敗した風潮はとても興味深かった。

作品解題によると、バルザックは『ゴリオ爺さん』を執筆開始から約4ヶ月で書き終わったらしい。まぁ単行本刊行から幾度か修正を繰り返したようだが、それにしてもこんな長編をたった4ヶ月で書き上げるとは。冒頭からの約60ページは舞台や人物の細かい描写が続き苦行ではあったが、そこは物語の大前提ともなるところなので飛ばすこともできず我慢して読む。するとその後おもしろいほどスムーズに読み進めることができる。決して読み飛ばすことなかれ。

さて、本作には『ゴリオ爺さん』の他に『幻滅(抄)』、『浮かれ女盛衰記 第四部』が収録されている。特に『浮かれ女盛衰記 第四部』は副題に「ヴォートラン最後の変身」とあり気にはなるが、抄訳とか一部抜粋ってどうなの?、読むのを躊躇してしまう。