『見知らぬ乗客』 正気と狂気は紙一重 交換殺人の行き着く先は・・・
『見知らぬ乗客』 パトリシア・ハイスミス / 白石朗訳
うーん、気色悪い小説だった。気色悪いというか気味が悪いというか、得体の知れない狂気に追いかけられているみたいな、そんな感じ。
「文学どうでしょう」でも解説があったように、本作は「倒叙ミステリ」といって犯人も犯行そのものも明かされている。その上で犯人の心理・・・妻を、父を殺したいと思うようになった理由や犯行に至った心理の変遷を犯人の視点で事細かに描き出されていく。
犯人目線で語られているから感情移入できるかというと、全然そんなことはなくて、むしろガイやブルーノの狂気にあてられて背筋が凍る思いの連続だった。ガイの方がまともかと思ったり、いやいやふたりともおかしいよと思ったり。ガイとブルーノの関係性が不気味だった。
物語終盤に登場する探偵のジェラードがいい仕事をした。犯人も犯行の詳細もわかってるんだからミステリでも何でもないじゃんと思いながら読んでいたら、最後の最後、ガイが床に転がった電話機を見つけたところで鳥肌が立った。このままガイが逃げ切るのかと思いきや、どんでん返し。ジェラードの仕掛けた罠。すとんと腑に落ちた。最後はやっぱりミステリだった。