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1年たつのは早い。早すぎる。ここまできたら行動あるのみ。後悔先に立たず。

『銀齢の果て』 筒井康隆が高齢社会と介護制度に物申す、エンタメであると同時に考えさせられる物語

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なんと恐ろしい設定。

老人が老人を殺し合う。

そんな話を堂々と小説にしてしまう筒井康隆に、あっぱれ!

筒井康隆にしか書けない小説だ。

『銀齢の果て』 筒井康隆

あらすじ

日本の高齢者人口は爆発的に増大し、若者1人が高齢者7人を養う社会になった。若者の負担軽減と破綻寸前の国民年金制度を維持するため、政府は「老人相互処刑制度(シルバー・バトル)」を実施することにした。すでに全国各地で殺しあいが行われ、79歳の宇谷九一郎が住む宮脇町五丁目地区でも明日からバトルが始まることになった。厚生労働省直属中央人口調節機構(CJCK)の処刑担当官によると、宮脇町五丁目に住む70歳以上の高齢者は59人。生き残りが1人になるまで1ヶ月間相互に殺しあい、万一複数の人が生き残った場合は全員処刑される。政府の施策により始まったシルバー・バトル。最後に生き残るのは誰なのか。高齢者はどんな思いで殺しあい、殺されていくのか。そして全国の生き残った高齢者たちが最後に取った行動とは。

感想とか

のっけから一人、殺される。それがあまりにも穏やかで、思わず受け入れてしまう自分に驚愕した。

殺しあう(一方的に殺される)シーンには直接的な表現があるものの、どこかコミカルで、それゆえ悲壮感や拒否感を抱かずに最後まで読めてしまう。

さすが筒井康隆だなぁと思う。大抵の作家が避けるようなテーマ、(多分多くの人が)心では思っていても決して口に出さない考えや漠然とした思いを、真正面から取り上げ描き切るところは、本当にあっぱれというかさすがだ。自身が高齢者になったからこそ書けたということもあるのだろうけど、なかなか書けないよ。

私も、思ってはいても言えない。絶対に言わない。

介護保険のあり方や高齢社会の現実などについて改めて考えさせられたし、本作を読んでというより、本作を書いた筒井康隆に勇気をもらった感じ。

批判を恐れず、堂々と意見を言える高齢者になりたいものだ。