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『新世界より』 SFでホラーで冒険小説だけど人間の本質を考えさせられる深い物語

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いやー驚いた。

すさまじい物語だよこれは。

SFであり、冒険小説であり、ホラーでもあり、ミステリーでもある。

こんなにすごい小説を今まで知らなかったとは、そりゃ活字中毒を語る資格はないわ。

新世界より』 貴志祐介

舞台は今から1000年後。日本には9つの町があり人口はおよそ5〜6万人。渡辺早季が住む神栖66町は外から穢れが侵入することがないよう、周囲を注連縄(しめなわ)で囲まれていて、子どもたちはそこから外に出ることを禁じられていた。呪力を使えるようになった早季は全人学級に入学し、夏のキャンプで国立国会図書館の自走型端末「ミノシロモドキ」に出会う。「ミノシロモドキ」から1000年前に日本が崩壊した理由と現在までの歴史を聞かされ、幼い頃から聞かされ見てきた世界がまやかしだったことに気がつく。悪鬼が、業魔が出現し、早季たちは呪力で町を守ろうとする・・・という話。


もうびっくりの展開、怒涛の展開で、次から次へと、これでもかってくらいに事件・騒動・難題が早季たちに襲いかかり、息つく暇もないままラストになだれ込んだ。

よくもまあ作者・貴志祐介はこんなストーリーを考えついたものだ。頭の中を見てみたいよ。

本作は全6章からなり、主人公の渡辺早季が当時を振り返る回想という形で進んでいくのだが、それぞれのエピソードはどれもしっかり考え尽くされたもので、読み進めるほどに物語の世界観にどっぷりとはまっていく。

上中下3巻なのでさすがに一気読みはできず、読了するまでの幾晩かは、布団の中で意識が遠のく瞬間まで早季たちの住む世界を浮遊する不思議な体験をした。


物語が進むにつれ、悪鬼や業魔という存在がクローズアップされてくる。

過去、様々な町や村において、悪鬼は、幾度となく出現しました。そのたびに、街路は屍で埋まり、川は流血で赤く染まりました。悪鬼とは、ある意味では、人間の本質に深く根ざした業のようなものかもしれません。それに対し、わたしたちには、対処する方法がないのです。

これは悪鬼によって崩壊する町を救うため命をかけた早季の母親から娘への手紙の一部。

呪力を持った人間が作り上げた世界は危ういもので、悪鬼と呼ばれる恐ろしい存在は、もしかしたら自分たち人間が意図せず作り上げてしまったものかもしれない。と私は解釈した。

これは現代にも通じる。人間の本質なんて100年たっても1000年たっても変わらない気がするから。

エンタメ小説なのに考えさせられるよね。深い。


物語にバケネズミという生き物が出てくるんだけど(人間の登場人物と同じくらい重要な役)、その中の奇狼丸(きろうまる)がまたいい。

勇敢で、戦術にたけた戦国武将みたいな感じ。好きだなあ。最後は泣くよきっと。

もちろん、早季や覚や、そのほかの仲間たちもそれぞれいいキャラを出していて、要するに、登場人物全員が際立っているってことなんだけど。


貴志祐介『黒い家』を読んだとき、貴志祐介作品は初めてみたいなこと書いたけど、よくよく本棚を見たら違っていた。

『クリムゾンの迷宮』があったわ。

あれも妙に背筋がゾクゾクする話だったよね。ホラーというか、サバイバルゲームみたいな感じの話だったような。

でも、『黒い家』『クリムゾンの迷宮』『新世界より』を比べると、ダントツで『新世界より』が秀逸!