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『災厄の町』 秘めた殺意は凄まじいものだった 町が旧家を飲み込む本格ミステリー

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そうきましたか、エラリイさん!

やられました。最後までわかりませんでした。

参りました・・・。

といいたくなる古典的で本格的なミステリーだった。

こういうのをミステリーの原点(のひとつ)というんだろうな。

それにしても、町の変わり様が恐ろしい。

それまで静かで平和そのものだった小さな町が、殺人事件によって一気に燃え上がり一家を陥れる。くわばらくわばら。

『厄災の町』 エラリイ・クイーン

あらすじ

結婚式直前に姿を消したジム・ヘイトが突然故郷のライツヴィルに戻ってきた。婚約者だったノーラ・ライトは3年間ジムを待ち続け、ようやくジムと結婚しふたりは夫婦となった。幸せな日々が続くと思われたある日、ノーラはジムが書いたと思われる3通の不審な手紙を見つける。そこには妻が病気が重篤であること、やがて妻が死んだことが書かれていた。これは殺人の予告なのか。ライト家に起きた殺人事件の真相に作家エラリイ・クイーンが迫る。

感想とか

ミステリー小説というと、ついストーリーや犯人、伏線なんかを追ってしまうけど、この『厄災の町』はそれプラス登場人物の描写が丁寧で、文学的な作品を読んでいるような趣があった。

今風のいけいけのストーリーももちろん好きだけど、平和そのものの小さな町で、疑われることなく粛々と殺人が実行されることに、逆に恐怖心を掻き立てられる。

犯人は誰? 真相はいつ明かされるの? ハラハラやきもきしながら、ラスト50ページでエラリイが語る真実には、もおびっくり仰天。青天の霹靂。

そうなの? わからんかった! と叫び、ページを戻り、なるほどここねと合点した。

私もね、わかってたんだよ、あの手紙のことは。そんなことだろうと思ってた。でも、犯人は最後の最後までわからなかった。悔しいけどエラリイさんの勝ち。

そして、ストーリーもさることながら、人物描写がすごくうまくて何度もはっとさせられた。ちょっと長いが、ノーラを見た時のエラリイの言葉を紹介する。

ノーラ・ライトは両の手のひらを上に向けて重ね、疲れきったかのようにすわっていた。血の気のない唇をゆがめて笑顔を作っている。身支度はていねいにすませてきたと見え、明るい縞模様のディナードレスは真新しく、ドレープの出方も完璧だ。爪は磨きあげられ、ワイン色を帯びた褐色の髪はひとすじの乱れもなく結われている。エラリイの脳裏に、いささか慄然たる光景が浮かんだ。眼鏡をかけたこの華奢な若い女性は、二階の自室で夢中になって爪を整え、夢中で髪を結い、夢中で似合いのドレスをまとい・・・ただただ夢中になるあまり、あらゆることに気を取られ・・・不必要に時間をかけすぎて、夕食の席に一時間も遅れてきたのだろう。

エラリイがライト家の人々を観察し語ることによって、その人物の内面が浮かびあがってくる仕掛けだ。仕掛けというか技法?

ライツヴィルという名の町(住民はもちろん町そのものまで)が殺人事件によってライト家に背を向け、石を投げ、牙をむく様の描写もすごくいい。

文学作品的な面も合わせ持つミステリー小説で大いに楽しませてもらった。