『グラス・キャニオン』 心理学xミステリー、子どもの人生を台無しにするな!
前半は難しかったけど、後半はとんとん拍子。
終わってみれば、「心理学xミステリー」な一冊。
謎はすっきり、会話が多くて読みやすかった。
『グラス・キャニオン』 ジョナサン・ケラーマン
あらすじ
午前3時、もと臨床心理医のアレックスは、5年前に診ていた患者ジェイミー・キャドマスからの電話で叩き起こされる。電話口のジェイミーは錯乱し支離滅裂なことを叫んだかと思えば、弱々しくすすり泣き、最後には哀しい悲鳴をあげて電話が切れた。その日の夕方、ジェイミーは血まみれのナイフを持ったところを発見され逮捕される。15歳から19歳までの男娼ばかり6人がめった切りにされたラヴェンダー切り裂き魔事件の容疑者として。弁護士は、ジェイミーは殺人を犯したものの精神疾患を患っていたとして無罪を主張すべく画策する。アレックスもジェイミーを救うため弁護士側の証人として調査を始めるが、弁護士の言動に同意できず解雇されてしまう。その後アレックスは親友の刑事と組んで真相を追及し事件を解決する。
感想とか
本作は心理学を学んでいる人(学んだ人)、心理系の仕事をしている人にとっては、理解しやすい物語じゃないかな。
精神疾患について ー 病名や分類、症状、治療、患者との関わり方とか、精神疾患と犯罪(猟奇的ともいえる殺人や変質者など)の関連性とか、そっち方面の知識がないといろいろと難しかった。
専門用語や薬の名前にも戸惑うし、弁護士の「心神耗弱者ゆえ責任能力なし」って主張にも正直困惑する。わかるけど納得できないというか。アレックスも弁護士の言い分に安直に飛びつかず、ジェイミーは本当に犯人なのか、ってところからスタートしたわけなんだけど。
上下2巻のうち上巻は、心理学、精神医学的観点からみた事件の経緯や、ジェイミーと家族のあり方なんかを細かく描いていて、ちょっと読みづらかった。が、下巻は急展開、アレックスが弁護士のもとを離れ独自で調査を始めたところからはさくさく読めて、これぞミステリーって感じ。
謎が解けてしまえば犯人の動機や方法もなるほどと思えるけど、心理的なものや、特に精神疾患が関係してくると途端にややこしくなるから困る。
最後は、大人の自分本位な感情のはけ口にされ、私利私欲のために利用されたジェイミーがクローズアップされ、涙を誘った。ジェイミーの人生を返せー!
作者ケラーマンは幼児虐待、薬物乱用などの社会についても問題提起したかったのかなぁ。
ところで、本作は日本では1988年に刊行された。今から33年前。
30年以上たった現在、精神障害やジェンダーについてはずいぶん捉え方が変わったなぁと、本作を読んでしみじみ思った。
本作には、今ではありえない不適切な表現があちこちに散見されるし、同性愛者を侮蔑する登場人物には不快感を覚える。
新訳が出れば表現はかなり変わると思うけど、絶版だし、新訳はこの先もないかな・・・。